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2009年11月16日

ガルーダ・テツ 闘いの歴史 『俺的Kick生活』 【31】

『カーン、カーン、カーン』
ホール内の喧騒を、三度のゴングが打ち消した。
『始めに青コーナーより、ガルーダ選手入場です!!』
リングアナのコールが場内に響き渡る。

初1.jpg

『お前らー、舐めとったらアカンぞ、コラーッ!かかって来ーい!!』
俺の後楽園ホールでのデビュー戦は、梶さんのダミ声からなる異常にテンションの高い怒声で幕を開けた。

テーピングでグルグル巻きにしたセコンド用ビール瓶(休憩時、選手うがい用の水)を左手に持ち、右手にはハイテンション維持を保つには絶対的に必要不可欠な“魔法の水”が入った紙コップ。頭に青いタオルで捻り鉢巻を作り、人差し指で四方の観客を指差し大声で悪態をつきながら俺の後に付いてリング縁までやって来た。
梶さんの発狂に近い怒鳴り声は、周りの観客をキックボクシングという非日常的な空間から更に輪を掛け、緊急事態的な危機的空間に誘った。

俺は三段ある階段をゆっくりと登り、登る途中で口に水を含み軽くウガイをし、青コーナーポストを中心にして、向かって右側の4本ロープの隙間を自ら腰を屈め潜り抜け、淀み無くリングインに成功した。
俺がリングインするや否や梶さんはニュートラルコーナーによじ登り、コーナーマットを跨いで上から二本目のロープに足を掛け“ドン”っと腰を下ろし、体の全体を使ってユサユサと4本ロープを揺らし、赤コーナー側を指差しながら対戦相手に罵声を浴びせた。
格闘技の聖地である後楽園ホールで、今まさに梶さんは我が物顔で暴れている真っ只中であった。

後楽園デビュー1.jpg

少しの時間差で、赤コーナー側より対戦者である“佐藤 剛”選手が白地に赤の縁取り、背中には大きくSATOUの文字が刻まれているガウンを着込み、颯爽とリングインを果たした。
佐藤選手がリングインするだけで、佐藤応援団だけでなく後楽園ホールの観客全てが彼に対し声援を送っているようであった。

リングインした佐藤選手を見てコーナーマットから立ち上がった梶さんは、右手に持っていた“魔法の水”を口に含むみ、“ブーッ”と霧吹き状にしてリングの中に吐き出した。そして空になった紙コップを怒る狂人の態(サマ)で、リングのマットに投げつけた。
『あかん、やってもうた。もー、ほんまに知らんで…。ていうか、この状況どうしたらエエねん?』
責任転嫁したくとも言葉には出せず、そしてどんな事を言えばいいのか、また誰に言えばいいのか、梶さんが行っている蛮行ではあったが、そこに穴があったら入りたい程リング上の俺は羞恥にさいなまれ八方塞であった。

そして、ここで正式に“正義対悪”の図式が綺麗に成立した。
東の正義が知人の応援団から花束を貰っている最中でも、西の悪であるガルーダ陣営は、
『お前らに、ホンマモンのキック見せたるからなー!!』
『舐めとったらアカンで、舐めとったらー!』
『お前らまとめてかかって来い!!』
など、青コーナー側から大きな声でのたまって見せた。

『本日の第10試合、5回戦を行います。』
キックボクシングの興行では滅多にお目に掛かれない一種独特な緊迫した空気の中、外野の盛り上がりとは正反対にとても冷静な口調で、日本キックボクシング連盟のリングアナは静かに口火を切った。

『赤コーナー日本フェザー級1位ィー、128ポンド、ピコイ近藤ジム所属ゥー、サトウツヨシィー』
リングアナのコールが終わる直前には、パンパンパンパンパン!と乾いた火薬の音が鳴り響き、あちこちから赤、青、黄…、無数の紙テープがリング上に投げ込まれた。
その紙テープを掻き分ける事無くリング中央に歩み寄って来た佐藤選手は、右の拳を眉間に当て精神統一した後、俺の方に拳を突き出し『オリャーッ!』と渾身の力を込めて叫んだ。

『フン』
俺は彼の瞳をジッと見詰め、鼻で笑ってやった。
鳴り止まない歓声にイライラしたのか、梶さんはリング上に投げ込まれた紙テープを両腕で引き千切り、『オラ、オラ、オラーッ!』と青コーナー側のリングの縁を猿人の様に右へ左へと動き回り、観客を煽りまくった。

『青コーナー西日本キックライト級チャンピオンー、128ポンド4分の3ー、大阪横山ジム所属ゥー、ガルーダァー テーツゥー』
俺はリングアナのコールと共に軽く両腕を頭上に上げその場でクルっと周り、やや遠慮がちに観客にアピールをした。
俺のアピールとは反対に、梶さんは青コーナーのコーナーマット最上段によじ登り自らの片足を掛け、バランスを取りながら両腕を高々と天高く突き上げ、外国人プロレスラーの様に手の平を右の耳に宛がい、観客を小馬鹿にするような姿で更に煽った。
その仕草に腹を立てた何人かの観客はパンフレットを丸め、思いっきり青コーナー目掛けて投げつけた。

後楽園デビュー2.jpg

コールと同時に沸く観客。
怒り半分、面白さ半分、期待半分。
拍手と応援と罵声が入り混じり、観客は『ドドドドドド…』と両方の足で地団駄を踏み、床を蹴り鳴らした。
プロレスで言う重低音ストンピング。
観客は両選手コールの時点で既に爆発していた。

『選手中央。』
黒のスラックスに白いポロシャツ姿のレフリーが、両選手をリング中央に招いた。
『頭、金的、サミング(目潰し)、注意して。相手が倒れたらニュートラルコーナーに。倒れた相手には攻撃したら駄目だぞ。』
レフリーから軽い注意事項を聞き、対戦相手の佐藤選手と両方のグローブを合わせた。
この間僅か10秒、佐藤選手は俺をジッと見詰めていた。

青コーナーに戻り、マウスピースを口の中に入れて貰い、戦いの鐘を待った。
レフリーが左手を挙げその腕を下に振り下ろす合図で、後楽園ホールに『カーン!』と乾いた鐘の音が鳴った。
リング中央付近で俺は右の拳を彼に突き出し、彼は左の拳を俺に突き出し、『ヨロシク』っと俺たち二人は軽く拳で挨拶を交わした。

身体を小刻みに振りながらフットワークを使い、俺の右に回る佐藤選手。
サウスポーの俺は右の手を伸ばして彼との距離を測り、左足でミドルキックを彼の右腕目掛け、力を抜き軽く蹴った。
『バチーン!』
蹴ったと同時に少し動かれた為、腰の入りがイマイチではあったが、俺の左ミドルは彼の右腕を襲った。
オープニングヒットは、サウスポーのセオリーとも言うべき俺の左ミドルからであった。
『ガルーダ、その感じや!!エエでエエで、リラックスして行けー!!』
梶さんは大きな声で、セコンドの役目を果たそうとしていた。

軽いフットワークで、俺の周囲を回りながらパンチを狙っている佐藤選手。
彼のワンツーフックをパーリングとバックステップでかわし、その打ち終わりに大きく右フックを『ブーン』と被せるように振り抜いた。
俺の右フックは彼のスウェーバックにより簡単にかわされた。
別に当たらなくても良かった、警戒をさせる為と右フックを意識させる為の振りであった。

彼とは対照的に、俺は直線的な動きでプレッシャーを掛けた。
サウスポの右に回る事は、それもまたセオリーである。
俺はステップインし、右のローキックを彼の左足目掛け蹴った。
俺の右ローキックはスピード・威力共に申し分なく、彼の左足ヒザ上部分に的確に巻きついた。
この蹴りは一番得意とした蹴りであり、対戦相手を右に回らせない為と出鼻を挫く為、そしてパンチを打たせなくする為の軽いジャブのような蹴りであった。

尚も小刻みに上半身でリズムを取り、軽いフットワークで攻撃を仕掛けてくる佐藤選手。
今度は右のインローを織り交ぜながら、攻撃を上下に散らせてきた。
俺は右の前蹴りで突き放し、中間距離から左ミドルを蹴った。
『バッシーン!』
スピード・距離・角度、当たりもバッチリな左ミドルであった。

梶さんの暴れん坊ぶりを他所に、俺は冷静に戦っていた。
そして周りも良く見えていた。
パンチも蹴りも良く走っていた。
梶さんの声もよく聞き取れた。
ビックリするほど落ち着いている。
対峙した佐藤選手相手にドッシリと構え、自分の距離に合った攻撃をしていた。
教えて貰った事ではなく、感覚で距離を選び、感覚で技を繰り出していた。
『よっしゃ、この調子や。』
心の中で呟き、更に気持を引き締めた。

しかし、佐藤選手もこのままで終わる筈はない。
サウスポーであると言う事ぐらいは佐藤陣営の耳に入っていたと思うが、『ガルーダ』と言うリングネームといい、スポーツ選手とは相反するロン毛の風貌といい、それに輪を掛け傍若無人なセコンドの振る舞いといい、底知れぬ得体の知れない俺に対して第1ラウンドは様子見といった所だとは思うが、6勝の内4KOの実績は、攻撃を貰いながらでも何かを探っているような、何かを狙っているような、弱小団体西日本キックという外敵に対する日本キックという本場の気高いオーラを全身から醸し出していた。

『ガルーダ、そんでエエねん。狙うな、狙うなよ。上から下や、下から上や!真っ直ぐ下がるな、回れよ!!』
梶さんは大きな声で叫んでいた。
そして時折り観客に向かって怒鳴り上げた。
『やかましいんじゃー、お前ら!!』
『煩い、黙っとれー!!』
俺がリング上で戦っているように、リングの下では梶さんが観客と戦っていた。
しかし梶さんの怒鳴り声を掻き消すかのように、佐藤選手の攻撃が当たれば観客は手を叩き、椅子から立ち上がりヤンヤの声援を送った。
『負けてたまるか…。』
俺も梶さんも、思いは一緒であった。

『カーン』
第1ラウンドの終わりを告げる鐘の音。
ラウンド終了時点でイニシアチブは俺のほうにあったと確信し、青コーナーに戻っていった。

…続く
posted by テツジム岡山代表 at 00:47| Comment(15) | TrackBack(0) | 俺的Kick生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
待ってました。待ってました。
伊原会長が唖然として梶さんを見ているシーンが目に浮かびます。
あの時代、東京であのロン毛は絶好の職質対象ですね!
Posted by キック☆D at 2009年11月17日 00:22
はじめて会ったときがこのちょっと前くらいだったかな、この髪型はインパクトありました〜!!

それ以上にこの頃の梶さんのクレイジー振りときたら・・・
Posted by jirock at 2009年11月17日 17:21
はじめまして

以前、Wジムで選手だった「西亀有ナッツ」です

この日は私も試合に出ていたのですが
テツさんと、とんち商会の大暴れのとばっちりを受け、W会長にWジムの選手、セコンド全員がビンタされたのを御存じでしょうか?
Posted by 西亀有ナッツ at 2009年11月17日 21:56
キック☆Dさん、何時も書き込み有り難うございます。
しかも一番乗り!!
最高です。

俺的には江口洋介風のロン毛やってんけど・・・周りからみたら違った見たい。
世の中っておかしいよね(笑)。

最近でも職質されるで、東京でやけど・・・やっぱり、世の中っておかいしで(笑)

jirockさん
日曜日はお世話になりました。

ほんと、梶さんの奇行ぶりには、手を焼きましたよ。

西亀有ナッツさん
初書き込み有り難うございます。

なんと!?!
ビンタ!!!
それほんとですか?
ぜんぜん知りませんでした。

ガルーダ・テツ並びにアンチェイン梶の悪行、この場をお借りしてお詫び申し上げます。

お詫びに今度、食事ご馳走させて下さい。

でも、ビンタのお返しは勘弁して下さいね(笑)。
Posted by ガルーダ・テツ at 2009年11月18日 00:12
テレクラみたいに「更新ボタン」を何度も押して「まだ更新されないかな?」と待ってますよ。

ウチの生放送で「麻原…」と言いそうになってやめてましたけど当時は「シャブ中にキチガイしかいない○○○○地区」と言って「ごめんなさい」とあやまって澄んだ某格闘家がいましたよ。
Posted by キックキチガイ☆D at 2009年11月19日 00:46
“男の55分”に生出演した時、ほんと言いそうになったけどやめたな〜。
せやけど、放送前の打ち合わせの時から、「生放送ですから、生放送ですから・・・」って、キックキチガイ☆Dさんに釘刺されてたからな〜(笑)

でも、「ふるちん、ふるちん」って楽しそうにも喋ったな(笑)

Posted by ガルーダ・テツ at 2009年11月20日 00:28
当時まだ25歳位でしたからねえ。
今は逆に「CSなんだから地上波で言えないことを言わないと意味がない」と言っているのですが…
しかしなぜか55歳主婦の方から「感動しました」という長文FAXいただきましたし、格闘技を全く知らない後輩に見せたら号泣してましたから非常に良い放送だったと思います。

Posted by きっくきちがいD at 2009年11月21日 01:59
有料放送やからな、何でも言えるよな〜(爆笑)


ほんなら、また使ってもらおうかな、俺。

サムライTV始まって以来の問題作品にしょうか?(笑)
Posted by ガルーダ“狂人”テツ at 2009年11月21日 22:06
ご無沙汰しております。

更新、首を長くしてお待ちしております。
Posted by キックD at 2010年02月11日 03:31
キックDさん久し振り。
まだぜんぜん書いてないねん・・・・。
頑張って執筆します。

3月終わりか、4月の頭かな・・・・。
Posted by ガルーダ・テツ at 2010年02月16日 23:45
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
先日は動画メッセージありがとうございました。
ところで…
この続きはいつ…
Posted by キックD at 2011年01月16日 01:31
あけおめ、ことよろ!

返信遅くなってごめんね。


キック生活な〜、何時になることやら…(笑)
Posted by ガルーダ・テツ at 2011年01月26日 21:21
これの続きは、どこに行ったら読めるのでしょうか?
Posted by かめちゃぶ at 2017年08月26日 06:59
>かめちゃぶさん

コメントありがとうございます。
この後に最終話をアップしてたのですが、こちらの手違いかブログ側の不調か、気が付いたら消えてました。
再度アップしようと思ったのですが、テキストが残っておらず、断念した次第です。
消化不良で申し訳ないですが、ご理解のほどお願いします。
Posted by テツジム岡山 at 2017年08月26日 08:56
お返事いただきありがとうございます。
そうですか。
残念ですがアンチェインのDVDを観ることにします。
ジムのご発展をお祈り致します。

キックの星見てましたー!
Posted by かめちゃぶ at 2017年08月26日 18:10
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